【小説】街灯とバレリーナ

キラキラと街灯が光る。
輝きはリアの背中を照らしていく。

電気を節約するという方針が決まってから、夜中でもずっと光り続けていた街灯は、人が通るときだけ光るようになった。

ひとびとはとても喜んだ。
都会には見えないと言われていた星が、また見えるようになってきたからだ。

カノープスの輝きがよみがえる。
街が暗くなったとしても、ひとびとの心はむしろ明るくなった。

街には他にも、良いことがたくさんあった。
夜に遊ぶ子どもがへった。朝早く起きる人が増えた。犯罪も少なくなったという。

扉をあけ、リアはスニーカーを脱ぐ。
髪をほどきながら、小さなためいきをついた。

バレエが上手に踊れないのだ。
部屋着にきがえながら、自分の動画を見なおした。

かがみに囲まれた場所で練習しているのだから、自分の姿はいつも見ている。
それでも、もっと上手くなりたいという思いから、動画を見る。

「やっぱりやめよう……」
リアはスイッチを切った。

バレエをするために都会に来たのに、彼女はどんどん踊れなくなっていた。
新しい先生の指摘はするどく、きびしかった。

たくさんのプレッシャーが、リマをおおっていた。
からだはどんどん動かなくなり、そんな自分の踊りを見ることがイヤになったのだ。

上着を羽織り、外に散歩しに行くことを決めた。
やりようのない心をどこかへ持っていきたかった。

まだ慣れない道を歩いた。
どこを歩いているかわからなかったが、リマにとってはそのほうが良かった。

ふと、ピアノの音が聞こえてきた。
「まだ、ピアノを弾いてもいいんだ……」

リマは心の中で、時間のことを気にした。
それでも、ピアノの音色がうつくしかったので、歩調をゆるめて少し聴き入るうちに時間のことは忘れていた。

あるパートまで来ると、音が途切れてしまった。
少し前からくりかえすが、同じところで止まってしまう。

「練習しているんだな」
リマはどこから流れているかわからないピアノの音に耳を澄ませ、応援した。

コツをつかんだのだろう。
ピアノは指が回らなかったパートを弾けるようになった。

リマはひとりで喜んでいた。
音楽はまたスタートから流れ始める。

彼女はピアノの音に合わせて踊り出していた。
のびやかに、自由に。

街灯はうごいた方へ彼女を追う。
リマが手を伸ばせば、その先のライトが光った。

ステップを踏み、右に左に移動すればライトの光も彼女を追った。
周りには誰もいなかった。

街灯の光だけが彼女を追っていた。
リマはゆっくりと、優雅に回ってみせた。

輝きも彼女にあわせて、まあるく順々に動いていった。

ピアノの曲は、長いものではなかったので、くり返されていった。
どんどん上手になっていった。

リマの踊りは、どんどんのびやかになっていた。

街灯の光は、彼女の動きを際立たせ、
ピアノの伴奏は、彼女の自由な心を支えた。

暗い街に、音楽と光が舞う。
ひとびとは、みな静かに窓の外を眺めていた。

リマは踊っていた。
感じるがままに、からだを動かしていた。

芸術が、ひとびとの心を温めた。
ひとときの幸せを、みんなが噛みしめていた。

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この記事を書いた人

支考社 代表

門野坂翔太(かどのさか しょうた)

東京学芸大学・教育学研究科修了。教職修士(専門職)。
中学校・高等学校専修免許状(社会・地理歴史・公民)。

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